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コラム

国産CRISPR診断薬の開発と新型コロナウイルスへの応用

新型コロナウイルス迅速診断法開発の必要性

2020年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によりこれまでの日常が一変しました。この状況はしばらく続くと予想されています。更なる感染拡大を防ぎつつ再び人々の活動を広げていくためには、医療現場などで迅速で精度の高い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断ができる体制を整えることが極めて重要になります。新型コロナウイルスに感染しているかどうかを調べる方法として、主にPCR検査、抗原検査が利用されています。PCR検査法は非常に少ない数のウイルスでも高感度に検出できますが、PCR検査には専門的な技術や解析機器が必要なため臨床現場で実施することが難しく、特定の検査機関でしか実施できないのが現状です。抗原検査は30分程度と迅速かつ簡便にウイルスを検出することができる一方、検出感度が低くまた特異度も高くないため、偽陽性や偽陰性が生じやすい問題があります。そのため、両方のメリットを取り入れた、高感度で高精度なポイントオブケア(臨床現場即時)検査法の開発が世界中で進められています。

CRISPR診断技術

この難題を解決する技術の一つとして注目されているのが、CRISPR診断技術です。CRISPR-Casシステムは狙った遺伝子を操作するゲノム編集技術として開発されてきましたが、その中のいくつかの種類がCRISPR診断に用いられつつあります。代表的なCRISPR-Cas12a(Cpf1)は、標的DNA配列を認識・切断した際に、周辺の一本鎖DNAも分解する性質を持っています。これを利用することで、ウイルス等の標的配列の有無を、一本鎖DNA切断の有無に置き換え、シグナルとして可視化できることが示されました。この方法はDETECTR法と名付けられ、既に新型コロナウイルス・SARS-CoV-2の検出法としてプロトコルが確立されています1。CRISPR-Cas13a(C2c2)はRNAを対象に同様の性質を持つことからSHERLOCK法として確立されており、こちらもSARS-CoV-2の検出法に利用されています2
私たちはこれまで日本発のゲノム編集技術としてCRISPR-Cas3の真核細胞への実用化を行ってきました。クラス1に分類されるCRISPR-Cas3システムは、Cas9やCas12a、Cas13aといったクラス2に属するCRISPRと異なり、複数の因子で機能することが知られています。私たちはこれらの因子をすべて最適化してヒト細胞内に発現させることで、ゲノム編集が可能であることを明らかにしました3。さらに最近、このCRISPR-Cas3が、CRISPR-Cas12aと同様に、標的DNA配列を認識した際に、周辺の一本鎖DNAも分解する性質を持っていることを発見しました4。すなわち、CRISPR-Cas3もサンプル中の核酸を検出するための正確かつ迅速なバイオセンサーとして利用できることになります。私たちはこのCRISPR-Cas3を用いた核酸検出法を最適化し、CONAN法(Cas3 Operated Nucleic Acid detectioN)として確立しました。

CONAN法の新型コロナウイルス迅速診断への応用

このCONAN法をCOVID-19の新しい迅速診断法として確立するため、SARS-CoV-2のウイルスRNAを用いて検査を行った結果、数十コピー程度のサンプルでも、最短40分以内に試験紙で検出することに成功しました4。実際にCOVID-19陽性患者10例、陰性者由来サンプル21例の鼻腔ぬぐい液サンプルを用いて診断を実施した結果、陽性一致率(PPA)は90%(9例 / 10例)、陰性一致率(NPA)は95.3%(20/21例)を示したことから、高精度にSARS-CoV-2を検出できることが分かりました。
CRISPR診断技術による迅速なCOVID-19診断法は、特別な診断機器を必要とせず、一般的な試薬、試験紙と保温装置だけで最短40分以内に診断することができます(図1)。またPCR法と同様に、数十個のわずかなウイルスRNAでも高感度かつ高精度に検出することができます。すなわち、PCR検査法の感度、正確度という利点と、抗原検査法の迅速、簡便、安価という利点を併せ持った新しい診断法と言えます(図2)。


図1 CONAN法による新型コロナウイルス検出法


図2 主なウイルス感染の検査法

COVID-19診断法として既にDETECRやSHERLOCKはキット化され、実用化が進んでいます。私たちもこのCONAN法を、国内バイオベンチャー企業である株式会社C4Uを通じてキット化し、来るべき感染拡大の第2波、第3波への対策、またオリンピック開催に向けた海外からの渡航者の水際対策として、簡易的に使用できる国産COVID-19迅速診断薬として早急に実用化することを目指しています。

参考文献

  1. J.P. Broughton et al., Nat Biotechnol. 2020 Apr 16. doi: 10.1038/s41587-020-0513-4.
  2. C.M. Ackerman et al., Nature. 2020 Jun;582(7811):277-282. doi: 10.1038/s41586-020-2279-8.
  3. H Morisaka et al., Nat Commun. 2019 Dec 6;10(1):5302. https://doi.org/10.1038/s41467-019-13226-x
  4. K Yoshimi et al., MedRxiv, 2020 June 2 posted. https://doi.org/10.1101/2020.06.02.20119875

令和2年7月

東京大学医科学研究所 実験動物研究施設
先進動物ゲノム研究分野/システム疾患モデル研究センター
ゲノム編集研究分野 講師
 吉見一人

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