コラム・インタビュー

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2024年度【上期】AMED創薬ブースター説明会申込

Translational and Regulatory Sciences

TRSに掲載された国内向け研究論文(日本語論文)について

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コラム

創薬カーブアウトによる研究成果の実用化

アカデミア等の研究成果から新薬が生まれる(以下「創薬」とします)までには、新薬のコンセプトを決定する病気の原因の解明から、新薬のモトとなる新薬候補の発見と創製(基礎・応用研究)、新薬候補の有効性と安全性の研究(非臨床試験)、ヒトを対象とした有効性と安全性のテスト(臨床試験)、各国の規制当局に対する承認申請、同規制当局の審査、承認を経て、薬価基準の収載、販売(上市)まで、長きにわたる(おおよそ10年~15年)プロセスが存在します1
表1は、新薬の上市までのプロセスにおけるステージ毎の研究開発に対する投資額、成功確率を表しています。“TTH(Target to Hit):試験管あるいは動物等での試験でのヒット化合物の探索”、“HTL(Hit To Lead):リード化合物の創製”、“LO(Lead Optimization):リード化合物の最適化”、“PC(Pre-Clinical trial):非臨床試験”、“PHI(Phase I clinical trial):少数の健康な人を対象に、副作用などの安全性について確認するヒトでの第一相臨床試験”、“PHII(Phase II clinical trial):少数の患者さんを対象に、有効で安全な投薬量や投薬方法などを確認するヒトでの第二相臨床試験”、“PHIII(Phase III clinical trial):多数の患者さんを対象に、有効性と安全性について既存薬などとの比較を行うヒトでの第三相臨床試験”、“STL(Submission To Launch):規制当局への申請”へとステージを上げ、規制当局の承認を得て新薬が上市されます。表1のように、基礎研究から上市までに至る新薬の成功確率2は、4.11%(=0.8*0.75*0.85*0.69*0.54*0.34*0.7*0.91)であり、1製品あたりの総投資額は$873 millionとも言われています。

表1 創薬における各ステージの投資額、成功確率、割戻し成功確率

 
基礎・応用研究・非臨床試験
臨床研究
医薬品
承認申請
上市
ステージ TTH HTL LO PC PHI PHII PHIII STL 合計
各ステージの投資額 24 49 146 62 128 185 235 44 873
各ステージの成功確率 0.8 0.75 0.85 0.69 0.54 0.34 0.7 0.91 -
上市を基準とした各ステージの割戻し成功確率 0.04115 0.05144 0.06859 0.08069 0.11695 0.21658 0.63700 0.91000 1.0

出所)Nicola Dimitri (2011)“An assessment of R&D productivity in the pharmaceutical industry” Trends in Pharmaceutical Science, Vol.32, No.12,pp684
※各ステージの投資額の単位:million dollar

上市を基準とした場合、基礎・応用・非臨床試験と臨床試験の初期(PHI)時点の割戻し成功確率は、決して高い数字ではありません。しかし、各ステージだけを切り取ると、最も成功確率の低いPHIIの0.34であり、ステージ毎で創薬を推進するかたちを最適化することにより、創薬全体としての成功確率を上げることができるものと考えています。

私達、一般社団法人 医薬新結合研究所(Bio New Combinations Research Institute: BNC )では、創薬の各ステージで研究成果を育てる組織(ビークル)を作り、一時的に研究成果を所有者から移転し、ビークルにおいて研究成果を創薬につなげていく活動である“創薬カーブアウト3”を推進しています。創薬カーブアウトの推進が社会に求められている主な理由は次の3つとなります。
1つ目は、創薬活動を進める主体において各ステージに適した人材が不足してしまう場合があることです。新薬の上市までには、各ステージで活躍するプレイヤーが異なってきます。創薬カーブアウトにより、ステージ毎の課題に必要となる人材をビークルに招聘し、創薬を進めていくことができます。ビークルを土台として、大学・研究機関、製薬企業、受託企業、ベンチャーキャピタルなどに所属する様々な専門家の人々が新薬研究開発のステージ毎に協業を進めていきます。
2つ目は、創薬活動を進める主体において各ステージに適した技術(テクノロジー)が不足してしまう場合があることです。創薬活動は日に日に難易度を増しており、ステージ毎に必要となるテクノロジーも高度化し、全てのテクノロジーを創薬活動の主体者が確保できるわけではありません。創薬カーブアウトにより、ステージ毎の課題に必要となるテクノロジーをビークルに集め、創薬を進めていくことができます。
3つ目は、創薬活動を進める主体において各ステージに必要となる資金が不足してしまう場合があることです。表1で示したとおり、創薬は多額の投資を必要とするものとなっています。創薬カーブアウトにより、ベンチャーキャピタルや国の研究機関等からステージ毎に必要となる資金を調達し、創薬を進めていくことができます。
新薬の創出が難しくなっている今日において、創薬カーブアウトの推進は、様々なステージで必要となってきています。まず、病気の原因の解明から新薬候補の発見と創製までの基礎研究のステージでは、AMED創薬ブースターがカーブアウトのビークルとなり、アカデミア創薬シーズ等を招聘して、同シーズに最適な人材、テクノロジー、資金をデザインし、再構築することにより、創薬活動を推進しています。AMED創薬ブースターの活動の一環としてBNCは、製薬企業とのパートナリングの場を通じて有望なアカデミア創薬シーズ等を定量的、定性的に分析し、同シーズがステージアップするための計画をデザインし、AMED創薬ブースターに提案しています。
また、新薬候補の有効性と安全性の研究である非臨床試験と、ヒトを対象とした有効性と安全性のテストまでの臨床試験においては、BNCが創薬カーブアウトベンチャーを設立した上で、製薬企業が保有する新薬候補とその新薬候補に適した人材、テクノロジー、資金を調達する活動を推進しています。

製薬企業を対象とした創薬カーブアウトでは、私達、BNCの創業メンバーは2015年9月に疼痛領域の新薬候補を製薬企業から調達しました。そして、その調達した新薬候補を創薬カーブアウトベンチャーに移転し、人材、テクノロジー、資金を結合して創薬活動を推進しました。2019年6月には同ベンチャーの創薬活動の成果である新薬候補物質の有効性が認められ、日本国内の製薬企業によるM&Aが成立しました。
創薬は今やひとつの組織の中だけでは成立しづらい時代となってきています。創薬カーブアウトはステージ毎で不足する人材、テクノロジー、資金を再構築し、新薬の上市へとつなげる有効な手段となってきています。
私共BNCでは、今後も最適なコラボレーションパートナーを見つけるための活動であるDSANJ Digital Bio Conference and Face to Face Meeting(D-Bio Digital & F2F)を開催し、創薬カーブアウトによる新薬研究開発基盤の整備を行ってまいります。


1 製薬協ホームページ http://www.jpma.or.jp/medicine/about_medicine/type/discovery.html
2 基礎研究・応用研究(TTH,HTL,LO)においては、多数の医薬品候補物質が作られることから、物質を基準とすると約30,000分の1の確率と言われることもあります(出典:製薬協DATA BOOK 2012)。
3 本稿では、新薬研究プロジェクトあるいは新薬候補物質の研究開発ステージを滞りなく進めていくために一時的に外部の組織で研究開発を進めることを指します。

令和2年9月

一般社団法人 医薬新結合研究所
業務執行理事 DSANJ事業統括

吉川 徹

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