DISC事業
アカデミア研究者がDISCを活用して実感した、化合物ライブラリーの質の高さ
創薬ブースターやDISCでは、アカデミアと企業を結びつけて創薬への橋渡しを行っています。今回は、創薬ブースターの支援を受けてDISCを活用し、導出につなげることに成功した九州大学 生体防御医学研究所、主幹教授 中山 敬一先生からの声を紹介します。
創薬に関心のある研究者はもちろんのこと、アカデミア研究者との協業を目指す企業の方へのメッセージもいただきました。ぜひ、ご一読ください。
創薬のプロとのディスカッションは刺激的でいい体験
--創薬ブースターで支援を受けた印象はどうでしたか?
まさに創薬を目指した支援だと感じました。プロジェクトマネージャー(PM)をはじめ、AMEDの担当者が製薬企業出身だったため、創薬の的確なアドバイスのもとにスムーズに研究を進めることができたと思います。
私たちは科学(基礎研究)のプロですが、創薬のプロではありません。AMEDのチームの皆さまは創薬のプロとして接してくれ、(違う立場からの)プロ対プロのレベルの高いディスカッションができたことは斬新でした。実際に創薬研究に携わることで創薬研究への印象が大きく変わり、刺激的でいい体験になったと実感しています。
--PMのやりとりはいかがでしたか?
PMが研究開発計画書等の必要書類について案文を作成され、私たちはそれを確認する、という仕事の分け方をしていただきました。私たちは事務的な作業に時間や労力をあまりかけずに済み、その分、研究に打ち込む時間を確保できました。このことは、研究者にとって大きなメリットだと思います。
DISCの化合物ライブラリーは創薬に適している
--DISCユニットで実際にスクリーニングを実施しての印象を教えてください。
スクリーニング設備を見学したとき、その素晴らしい機器と技術にとても感銘を受けました。実際にスクリーニングを実施したときも、担当者がプロとしての熱意とプライドをもって取り組んでいる姿が印象的だったことも覚えています。ディスカッションでは、非常に専門的かつ合理的な提案をしてくれました。その内容は、私たち研究者とは違う視点からのもので、創薬スクリーニングのプロに依頼して良かったと思います。"餅は餅屋"ですね。
--DISCは約30万化合物を保有していますが、ライブラリーの品質はいかがでしたか?
薬としての特性に優れたものが選抜されている、という印象を受けました。化合物ライブラリーというと、スクリーニングでヒットしても細胞膜を通過しなかったり、in vitroでは作用があってもin celluloでは全く作用を示さなかったりするものが多く含まれると思っていました。DISCライブラリーは創薬につながる可能性が高いものであり、実際に私たちも2社への導出につながっています。
--DISCライブラリーに対して、さらに要望などがあれば教えてください。
DISCライブラリーを他のAMED事業にも使える仕組みがあれば、創薬の幅はもっと広がると思います。それくらい、創薬に適したライブラリーです。
ただ、企業から提供された化合物の情報は非開示ということで、スクリーニング結果を私たちの研究に活用できないのは残念に思います。せっかくヒット化合物があっても、企業が興味を示さなければそこで終わりというのはもったいないと思いました。質が高いからこそ、他にも使える道を考えてほしいものです。
製薬企業はアカデミアのパワーに注目すべき
--アカデミアの研究者として、企業へのメッセージがあればお願いします。
創薬のプロからの視点は私たちアカデミアとは全く異なるもので、とても刺激的で面白かったです。その一方で、動物実験で薬効等が確認できたようなある程度完成されたシーズ化合物にだけ関心を示す企業の姿勢には問題があると感じています。現状、アカデミアの研究コンセプトだけでは、企業からはほとんど相手にされません。また、ヒット化合物があっても、細胞レベルの実証だけでは見向きもされません。企業はアカデミアのパワーにもっと注目してほしいと思います。
--どういうことでしょうか?
アカデミア研究の強みは、すぐに役に立つものから全く役に立たないものまで、研究分野がとても幅広いことです。専門分野については、知識、技術、リソースが豊富です。基礎研究はアカデミアに任せ、その代わり開発については企業が本気で取り組むという流れがまだ弱いように私は思います。基礎的な研究については、企業はアカデミアにアウトソーシングするつもりでもいいと、個人的には考えています。日本の製薬企業は、リスクのある基礎研究への投資にもっと積極的になるべきです。
多くの"餅屋"に感謝しながら創薬をプロデュースしよう
--最後に、これからアカデミア創薬にチャレンジする研究者に向けてメッセージをお願いします。
まずは、しっかりとした科学的基盤をもつことが何より大切です。シーズにファームな(確固たる)理論的整合性と、それを裏付けるエビデンスが備わっていることが前提として必要です。
その上で、創薬を成し遂げるためには企業を含め、多くの人との協業が欠かせません。その際に、エビデンスに基づきつつも熱意を込めてシーズをアピールすれば、関心を引き寄せることができるでしょう。
そして、多くの人が関わるからこそ、周囲への感謝の気持ちを示すことです。創薬とは、たくさんの"餅屋"の皆さんから各自の得意分野の知識と技術を提供していただく大事業であり、総合プロデュースを行う能力と熱意がなくては、成功は叶いません。今回、創薬ブースターを通じて、このことを実感しました。
編集後記
実際に創薬ブースターとDISCを活用したアカデミア研究者から、高いレベルのディスカッションができたこと、DISCの化合物ライブラリーの質の高さを評価いただきました。特に、化合物ライブラリーは「薬としての特性に優れたものが選抜されている」とのことから、ヒット化合物について企業は関心をもちやすく、創薬につながる可能性の高さを示していると思います。
一方で、企業に対しては、アカデミアの可能性を信じて基礎的な研究やデータにも注目してほしいという要望をいただきました。以前、DISC会員企業の座談会では、「ツール化合物レベルでも良いのでユニークなターゲットやコンセプトがほしい」という意見が出ましたが、より初期の段階から注目することで、オリジナリティの高い創薬シーズが発掘される可能性があるかもしれません。
DISC会員企業がアカデミアに求めていること
DISCのようなスクリーニングの段階だけでなく、基礎研究のステージからアカデミアと企業がより密接にコミュニケーションをとることが、創薬の可能性をさらに広げることにつながるのではないかと感じました。
中山 敬一先生のプロフィール
なかやま・けいいち
1986年 | 東京医科歯科大学医学部卒業、順天堂大学大学院医学研究科入学(免疫学専攻) |
1990年 | 同大学院卒業、理化学研究所フロンティア研究、ワシントン大学医学部ポストドクトラルフェロー |
1992年 | ワシントン大学ハワードヒューズ研究所博士研究員 |
1995年 | 日本ロシュ研究所生物学部主幹研究員 |
1996年 | 九州大学生体防御医学研究所細胞学部門教授(2009年より同主幹教授) |
幹細胞の細胞周期制御メカニズム、がん幹細胞の根絶、がん転移メカニズムの解明、自閉症研究、プロテオーム研究などの研究を進められている。また、次世代の定量プロテオーム解析技術 iMPAQT 法の開発も行われている。今回、DISCスクリーニングを実施し、導出を実現された。
コラム
2022.07.27 | アカデミア研究者がDISCを活用して実感した、化合物ライブラリーの質の高さ |
2022.02.08 | DISC会員企業がアカデミアに求めていること―― DISC会員企業5社との座談会 |
2021.02.24 | DISC活動を振り返って~さらなる進化~ (後編) |
2021.01.12 | DISC活動を振り返って ~立ち上げから今日まで~ (前編) |