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Global BioImaging (GBI)の実務者会議Exchange of Experience VII (EoEVII)(2022年9月14-16日)に参加して

上野直人(基礎生物学研究所)

 バイオイメージングの国際ネットワークGBIは、欧州のバイオイメージングネットワークEuro-BioImaging(EuBI)を母体として2016年に設立された。バイオイメージングの教育・技術水準の向上、顕微鏡等による画像取得やデータ管理の国際標準化などバイオイメージングを取り巻く諸問題に地球規模で取り組むためのコンソーシアムである。現在、欧州に加え、米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、インド、日本など11の参加国からなるが、2016年の設立以来、毎年参加国の一つをホストとして持ち回りで開催されてきた。今回は第7回目(EoEVII)の開催となる。EoEは現場の声をより効果的にGBIの運営、活動に反映させることを目的としている。同時に、国連、政府関係者、政策決定者を招いた講演を通して、各国政府の方針や具体的な将来計画について情報を得る良い機会となっている。
 EoEVIIがウルグアイ・モンテビデオで開催されることの意義は大きい。南米では最近ラテンアメリカのバイオイメージングネットワーク(Latin America Bioimaging。LABI)が設立されたばかりで、GBI結束の機運をさらに高めるという意味があった。私は米国東海岸からの移動であったが、日本から参加した理研・大浪修一さん、OIST・甲本真也さんらはこの長距離移動に耐えての参加であった。
  モンテビデオはウルグアイの首都で、人口140万人ほどの街である。会場は病院の最上階(19階)にある会議室で、病院での開催で、万全のコロナの感染対策のもと開催された。今回はzoomによる参加も可能なハイブリッド開催で、25カ国から133名(うち24名はオンライン)の参加であった。


図1 日本からの参加者(左から上野、甲本、大浪)


図2 会場の様子

第1日目(9月14日)

 会議はモンテビデオ州立大学の学生デュオによるギターの演奏で開幕した。GBI事務局から活動やGBIが主催するトレーニングコースの紹介の後、最初のセッションでは国連の科学技術・イノベーション政策プログラムに携わるGuillermo Anlló氏から技術と生産性向上との深い関わりについて、SDGs の達成目標である14項目の相互関係やオープンサイエンスの重要性について語られた(詳細は以下を参照 https://www.unesco.org/en/natural-sciences/open-science)。
  Canadian Network of Scientific Platformsの代表でGBIの「社会への波及効果」ワーキングループ(WG)でチェアを務めるLaurence Lejeune氏はバイオイメージングコア施設の波及効果の定量化について、最近学術研究機関の評価でもよく用いられるようになったKey Performance Index (KPI) や、 Social Economic Indicator (SEI)指標を用い、それぞれの施設の特性を考慮した評価を可視化することが重要であると指摘した。
  その後の持続性をテーマにしたセッションではイメージング施設やネットワークをどのように立ち上げ維持するかについて、イメージングネットワークを支援する企業、団体の取り組みも含めて、多様な立場の講演者によって紹介された。フィンランドでは、GBIの母体となったEuBIのメンバーとして小規模なネットワーク"Turku Bioimaging"をTurku大学のヘルスサイエンス推進プロジェクト"Health Campus Turku"の一環として成長してきたことが代表のJohn Erikssonから紹介された。また、フェイスブック創業者Zuckerberg氏の妻によって創設された財団(Chan Zuckerberg Initiative, CZI)は競争的なグラントによって47施設、10ネットワーク、40以上の国を支援しており、GBIもアフリカのバイオイメージング推進に関して支援を受けている。このCZIを代表してVladimir Ghukasyan氏が講演し、地域ネットワークの強化、ユーザーアクセスの平等性に加え、各施設・ネットワーク活動の定量的な分析が重要であることを強調した。また、企業を代表しZEISS MicroscopyのHerbert Schadeが企業にとってユーザーネットワークと繋がる意義は、ユーザーのニーズが直接わかる、特殊なセットアップのデモの機会が増える、共同開発の可能性がある、世界的な人材発掘、多様な開発およびセールスチームが構成できるなどの数多くのメリットがあると説明した。最後に、欧州連合-ラテンアメリカおよびカリブ海財団からClaudia Romano氏が、インフラや技術が不足するというラテンアメリカの問題は、欧州Horizon 22の働きかけによって、モンテビデオにウルグアイ大学と共同でパスツール研究所を設置したことによって解決しつつあることが紹介され、同研究所を代表してLeonel Malacrida氏がウルグアイの国レベルからLABI(前出)との協力関係によってラテンアメリカ地域のレベルにまで拡大しつつあるとの報告があった。
  今回はとくに、フランス、アフリカなどトラベルグラントを受けた若い参加者が自身の活動を紹介する、またイメージング施設の運営に関わるスタッフ達がキャリア形成について苦労話も含めた体験談を披露するセッションもあり、現在イメージング施設運営に携わるスタッフが実にさまざまな環境、ルートを経て現在の職を得ていることがわかった。
  特別講演は米国Janelia研究所のTen Leong Chew氏による非常に印象的なもので、同氏が感染症の克服には、とくに顕微鏡の普及が重要であると確信し、バイオイメージング水準を向上させるためにAMI(Africa Microscopy Initiative)を発足させた経緯が熱く語られた(詳細はNature Methods. 2021 Aug 20;18(8):847-855. doi: 10.1038/s41592-021-01227-y)。相当な労力を必要とする数々のプログラムを実行し、アフリカ大陸におけるネットワーク形成を達成しつつあることは賞賛に値する。


図3 LABIとGBIとの連携協定調印式

第2日目(9月15日)

 カナダ、欧州、日本、インド、北米、オーストラリア、メキシコ、南アフリカの各国からそれぞれのネットワークの取り組みを紹介、とくにSDGsとの関わりについて報告し、その後登壇者によるパネルディスカッションを行った。ABiSを代表した私は達成目標の#4(Quality Education)を挙げ、支援事業4プラットフォームによる生命科学連携推進協議会の成り立ちと意義、そして生命倫理(ELSI)ワーキンググループの役割について、Webページによる生命科学関連ガイドラインの説明や、感染症、ゲノム編集など社会に密接に関連するテーマのシンポジウム開催を通した一般社会への啓発活動を紹介し、加てABiS独自の活動として、顕微鏡の組み立て体験による光学の基礎を学ぶコース開催を段階的に拡張する計画について紹介した。
  今回のEoEでは初めてBiomedical Imagingのセッションが設けられ、各国の状況についてカナダ、アルメニア、イタリア、チリ(ラテンアメリカ)、南アフリカから報告があった。GBIでは新たに同WGも立ち上がったので、今後国際的な連携について具体的な提案がなされることと思われる。
  2日目を締めくくる講演はJan Ellenberg氏によって行われた。EMBLでは"molecules to ecosystem"という研究方針を掲げ、光学顕微鏡-CLEM(光-電子相関顕微鏡)-電子顕微鏡といったスケールを超えたイメージング手法や画像解析の重要性を強調した。同時にEUによって支援された次世代のオープンイノベーション構想"IMAGINE consortium"の実現についても触れ、モダリティを超えた(scale-crossingと表現)イメージング開発への取り組みを表明した。少なくとも欧州ではEMBLが圧倒的に先進的、統合的な取り組みを行っているとの印象を強くした。

 その後、①社会への波及効果、②イメージデータの管理、③Biomedical Imaging、④イメージング施設スタッフのキャリア形成に関する4つのWGに分かれ意見交換が行われた。

第3日目(9月16日)

 午前中は施設見学を4つのグループに分けて行なった。私のグループの訪問先はモンテビデオ出身の細胞生物学、神経生物学の権威の名を冠したInstituto Clemente Estable(クレメンテ・エスターブル生物化学研究所)と、EUとウルグアイ政府が共同設置した Institut Pasteur(パスツール研究所)であった。建物は歴史を感じる一方、決して贅沢で立派な造りとは言えず、限られた予算で最先端とは言えない顕微鏡に研究者自らが手をいれながら研究を続けており、防震台の設置さえままならないとの声を聞いた。とくに40年ほど前に国際協力事業団(JICA)の支援で日本電子(JEOL)の技術者により設置された走査透過型電子顕微鏡(STEM)が今でも大切に管理され、使用可能なほどに維持されていることは印象的であった。他方、後者のパスツール研究所はEUの肩入れで設置されたこともあり、欧米の研究所に引けをとらない設備で、最先端の共焦点顕微鏡や解析機器が並ぶ施設にガラス張りの明るい研究室が併設されている。この対照的な両研究所を見学できたことはウルグアイの科学の現状に触れることができた良い機会であった。
 今回は私にとっても2年ぶりの対面での国際会議出席であった。国際会議の肝はin personで交流し、信頼関係を築くことであり、オンライン会議ではこの目的を達成するのは困難である。来年、2023年のEoEVIIIは南アフリカで開催されることが決まった。アフリカ大陸イメージングネットワークはその活動が勢いづいてきたところである。このタイミングでEoE会議をホストすることで、その機運がさらに高まり、バイオイメージング水準の向上が加速するものと期待される。また、2024年には日本開催を打診されている。ABiSとしても国際的なプレゼンスを示す良い機会であるので、日本開催に前向な回答をしたところである。


図4 日本の支援によって設置されたSTEM

 最後に生命科学連携推進協議会から今回のEoEVIへの参加に対して旅費支援をいただきましたことを深く感謝申し上げます。

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