定藤 規弘
自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門・教授
先端バイオイメージング支援プラットフォーム
sadato@nips.ac.jp
【日程】 2016年10月9日〜10月16日
【訪問先】 チュービンゲン大学(独)・ニューロスピン(仏)・ブルッカー社(独)
新学術領域研究「学術研究支援基盤形成」先端技術基盤支援プログラム『先端バイオイメージングプラットフォーム』による支援の充実を目的として、超高磁場MRIを用いたヒトならびに動物実験に関する高度先端MR画像取得技術について、情報収集ならびに意見交換を行った。超高磁場MRIの研究で先端を走る研究施設である、独チュービンゲン大学と仏原子力庁(CEA) の研究機関であるニューロスピンを訪問し、更にMRメーカーであるブルッカー社を訪問し、動物用超高磁場MRIのハードウェアに係る技術的検討を行った。
図1 オープニングスライド(左)とThier教授
10月10日―11日の2日間にわたり、チュービンゲン大学ウェルナーライハルト統合神経科学センター(CIN、独 チュービンゲン市)で開催された第6回のCIN-NIPS Symposiumに出席した(図1)。チュービンゲン大学は、ドイツ有数の神経科学研究拠点である。7学部から構成され、職員数 500名(教授)、学生数25,500名、ウェルナーライハルト統合神経科学センターは72 名の主任研究員を擁し, 学生数300名である。本シンポジウムは、生理研との学術研究協力に関する覚書にもとづいて毎年開催されており、交互に相手国を訪問する取り決めで、本年は生理研を中心とする研究者がチュービンゲン大学を訪問した。午前9:50からチュービンゲン大学のThier教授, 生理研の南部教授からの会頭挨拶の後、本相互連携に尽力され、最近生理研から京都大学に移られた伊佐教授から挨拶があり、長期の相互研究の重要性について強調された。その後、2日間に渡り、主にシステム神経科学に関する口頭発表ならびにポスター発表が行われた。充分な時間をとって、自由な雰囲気で議論を進める事が出来、大変有意義なシンポジウムであった。特に超高磁場MRI(9.4T)の有用性に関して、チュービンゲン大学のScheffler博士から詳細な報告があり、脳血流計測におけるbalanced SSFPの有用性が示されたため、この手法を生理研に導入する方向で、Scheffler博士と生理研の福永准教授との連絡が進んでいる。
10月12日を移動日としてはさみ、10月13日にニューロスピン(仏 パリ市、図2)を視察した。ニューロスピンは原子力・代替エネルギー庁(CEA)基礎研究部門ライフサイエンス局に属する研究所である。CEAはフランスのエネルギー行政を担う政府機関で職員総数約15,000人、4部門からなる研究組織を持つ。2007年に設置されたニューロスピンでは、ヒト用3テスラ、7テスラ装置を用いて脳科学研究を進める一方、ヒト用11.7テスラ装置の開発で最先端を走り、技術レベルの極めて高い研究所である。今回の訪問では、生理研・ニューロスピンの研究者がお互いの研究テーマについて紹介した後、Denis Le Bihan博士(ニューロスピン所長)自らの案内により、ヒト用3T、7T装置ならびに建造中の11.7T装置について説明を受け、さらに動物用超高磁場装置を用いた実験的アプローチを見せていただいた。その後、生理研とニューロスピンの間で本年度締結された覚書に基づく今後の研究交流の詳細について、鍋倉生理研副所長、Denis Le Bihan 博士、筆者の間で議論した。
図2 ニューロスピンでの歓迎掲示板(左)と記念撮影(右:右端から3人目がLe Bihan 所長、その右筆者)
図3 ブルッカー社本社にて福永准教授(左)と筆者
同日陸路にてエトリンゲン市近隣のカールスルーエ市に移動し、10月14日 ブルッカー社(独 エトリンゲン市 図3)を訪問した。ブルッカー社は動物用MRIの製造・開発において先端を走る企業であり、全世界で600台以上を設置している。同社は国境を跨いでフランス工場とドイツ本社に分かれているため、まずフランス工場(ワイセンブルグ市)へおもむき、高磁場磁石と傾斜磁場コイルの作成現場を見学した。ドイツ本社(エットリンゲン市)にて、社長・副社長と面談し、イメージングサイエンスの今後の研究方向における動物用MRI装置の重要性について意見交換を行った。その後マウスを用いた超高速画像撮影実験を見学し、その手技における具体的な注意点について、研究者と議論した。
脳機能イメージング等の飛躍的な進歩により、脳科学が従来の断片的観測から脳機能をトータルで見る機能的観測へと急速に移行する中、わが国が世界最先端の研究を先導していくため、超高磁場MRIを保有する大学共同利用機関である生理研が、国内外の研究機関とネットワークを形成することでMRI研究の基盤を構築し、全国の大学等の利用に供すると共に、超高磁場MRIを駆使できる人材を養成することを進めている(概算要求事業「超高磁場磁気共鳴画像装置を用いた双方向型連携研究によるヒト高次脳機能の解明」平成28年度―33年度)。海外の重要な連携拠点として、チュービンゲン大学、ニューロスピンと学術研究協力に関する覚書を締結し、双方向型連携研究を推進している。今回の訪問はその推進活動の一環であると同時に、『先端バイオイメージングプラットフォーム』において生理研で担当している先端バイオイメージング支援の充実を目的としたものである。支援に必須の、ヒト及び動物を対象としたMRI技術の最先端動向を調査し、キーパーソンとのコンタクトを確立したことにより、今後技術連携をスムーズに展開できることが見込まれる。