イベント情報

令和元年度文部科学省 科学研究費 新学術領域研究「学術研究支援基盤形成」
生命科学4プラットフォーム 説明会・成果シンポジウム

日時:令和元年6月4日(火)
場所:一橋講堂 学術総合センター2F(東京都千代田区一ツ橋2-1-2)
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議事録

井上純一郎(生命科学連携推進協議会 研究支援代表者):
それではパネルディスカッションを始めたいと思います。これは、支援者側と支援される先生方の間でいろいろな話をして、よりよい支援の方法を考えていこうというディスカッションです。会場の方々にも、最後にご質問等ありましたら、後ほどお伺いします。まず、登壇者をご紹介します。今シンポジウムでお話いただいた、向こうから岡田先生、長山先生、大野先生、澤本先生、佐藤先生、それから、こちらの支援する側の代表として遺伝研の小原先生、がん研の中村先生、生理研の鍋倉先生と医科研の村上先生、それから私です。

 まず、支援を受けた側の先生からお1人ずつ、どのような支援を受けて、どういうところが支援として良かったのか、本当に必要な支援を得られたんであろうかというようなこと、あるいは、もっとこうだったら良かったんじゃないかといったことを端的に言っていただけるとありがたいと思っております。

 まず、お話された順番でよろしいでしょうか。佐藤先生から、そういう観点で2分程度お願いいたします。

佐藤賢文(シンポジウム演者:コホート):
熊本大学の佐藤です。先ほど、質疑応答のところでもディスカッションになったんですが、私の場合はHTLV-1の感染者の方の生体試料を使わせていただきました。これはやはり希少な感染症で、日本に多いということで大事です。日本にはそういうコホートが、元々JSPFADというのがありまして、それがこのコホートでも支えられているとお聞きしています。論文を投稿した後、リバイスで経時的なサンプルを解析しなさいと言われましたので、また再び追加でお願いして出していただきました。今解析ができているというのは、非常に助かっているところですね。
 ただ、お願いする際に、サンプルを出していただいた研究者の方、その方のエフォートを割いてもらわないといけなかったのが、ちょっと心苦しかったというところはあります。

井上:ありがとうございます。確かに、支援する側も研究者であるという点は、メリットとデメリットがあると思います。その点は、後でちょっとお話したいと思います。
 次に、澤本先生、よろしくお願いします。

澤本和延(シンポジウム演者:イメージング):
今日シンポジウムでお話させていただきましたように、私どもは脳の細胞が再生される過程を、電子顕微鏡レベルで詳しく調べたいと思いまして、今回のABiSの支援を受けました。SBF-SEMという顕微鏡を使うことでそれが可能になりました。

 このSBF-SEMという顕微鏡は非常に高額ですので、少なくとも私はそれを自分で買うことができません。仮に買えたとしても、試料調整や機械のオペレーション、実際に撮像する操作、また得られたデータの解析は非常に専門性が高くて、それを自分ですることはできないと思います。それを一通り、最初から最後まで全て支援していただきました。得られたデータをどうやって論文に出すかという、論文の図を作るところまでアドバイスしていただいた。これはABiSの支援がなければできなかったことだと思っています。

 問題点としては、SBF-SEMという顕微鏡は1,000枚近くの電顕写真を自動的に撮影しますが、それを三次元構築するために、1枚1枚電顕写真に映っている細胞のかたちを手作業で塗るセグメンテーションという作業がありまして、それに非常に時間がかかってしまいます。よって、それを支援していただくというのは非常に難しいとは思うんですけれども、その部分をサポートしていただくか、あるいは自動的に行うプログラムが開発できれば、多くの方が利用できるようになると考えています。

井上:その点、大野先生、一緒に研究された観点からいかがでしょうか。

大野伸彦(シンポジウム演者:イメージング):
まさに、今おっしゃったことが、支援する側として非常に毎回心苦しく思っているところです。非常に速いスピードで大量のデータを得ることができますが、それを今の時点では自動で解析することが難しい。ABiSの中ではデータ解析支援もあって、なるべくそういった解析をより専門的知識があるエキスパートが補助をするというようなことも試みています。しかし、なかなか一つ一つのデータを、全てについてその専門家に相談するというところまでコミュニケーションが円滑にできない部分があります。そういったエキスパート間のより円滑な連携というようなものも、今後、恐らくよりこうした枠組みが効率的に運用するうえで、非常に有用なんじゃないかなというのは感じております。

井上:先ほど岡田先生の大量データをどう処理するかという話と、今の電顕の話は似ているのかもしれません。その辺が今後支援する側も考えていく必要があるのかもしれません。ありがとうございます。
 それでは、長山先生いかがですか。

長山 聡(シンポジウム演者:動物):
今回、シンポジウムでもお話させていただきましたように私たちはRIでコンジュゲートした抗体で治療して、その組織を観察するということでご支援を賜りました。通常、こういう観察の時には検体をお送りして、支援してくださる先生があって、パラフィンを作ったりというのが一般的だと思うんですが、今回に関して言いますと、RIを使っているので施設から出せないというかなり大きな縛りがありました。それに対しても、結果的には神田先生が施設まで来ていただいて、そこで作業していただき、非常に助かりました。こういうことは、多分支援してくださる先生方には非常にご負担になるかと思います。こういうケースもまたこれからあるかもしれませんので、その際はまた同じようなかたちで対応していただけたら非常に助かると感じました。

井上:ありがとうございました。この支援事業は、最初にお話させていただいた民間の受託解析とは区別されるような高度な技術とか、研究者が支援しているからこそできること、みたいなことが結構大事だと思っているんです。ですので、支援する側がすごく手間がかかることがあったとしても、という言い方は申し訳ないですけれども、そこは一つの売りではあるかなというふうに思っています。
 岡田先生、いかがでしょうか。

岡田随象(シンポジウム演者:ゲノム):
私は、HLA遺伝子の日本人集団の解読というのを、ゲノム支援でやっていただきました。HLA遺伝子の解読は非常に専門技術が必要で、いわゆる外注や受託研究では現在実施が不可能です。また、千人規模となりますと、これは非常に大掛かりな支援になります。もちろん井ノ上先生はそういう技術をお持ちだったわけですが、私は当時、日本に帰ってきたばかりでお会いもしたことがない状況でしたので、ゲノム支援があってこそ初めてこのような大きな研究をお願いすることができた。またその後、大きな研究として発展させていただけたかなという気はしております。

 その後、井ノ上逸朗先生や細道一善先生とは、支援する側、される側の枠だけではなくて、一緒にお仕事をさせていただく仲間としての輪も広がりましたし、そういう面で非常に感謝をしております。特に、気になることとか足りないところに関しては、私は特に思いつかないのですが、あえて申し上げますと、これは枠組みの根幹にも関わるかもしれません。科研費を取った人が申請できる、取っていない人は申請できないというのが、持つ者と持たざる者の差をさらに広げてしまうような気がちょっとしますね。

これは非常に難しいのですが、できれば、科研費が終わってもあと数年は大丈夫とか、特に若手研究者の場合は基準を緩くするとか、本当は科研費を取れなかった人を、どうリカバーして差を縮めるかというのも大事かもしれません。これは、申請の手間もあると思いますけれども。そんな感じだと、もっと良さが皆さんに伝わるかもしれないと感じました。

井上:ありがとうございます。そもそも申請する方の資格として、科研費を得ていることというのが大前提としてありました。多くの先生方から科研費に関して、例えばその年度に申し込んでも継続して支援していただきたいという時に、次の年度は科研費がなかったらどうすればよいかというご相談もあります。よって結構大事なことだと思います。現状では科研費を持っていることが申請資格ですので、次第にその辺は検討したいと思っております。ありがとうございます。

 ありがとうございました。一通りシンポジストの方からご意見、あるいは問題点等をいただきました。恐らく、われわれ支援する側が問題としている、例えば支援する側のいろいろな状況の問題とか、民営の受託解析と区別できるような支援をしたいというようなことと少し関連していると思います。では、支援する側の先生方で、今のシンポジストの方から提案された問題等について、先生方がどう考えているかということを少し述べていただければと思います。こちら側から、村上先生からお願いできますか。

村上善則(コホート・生体試料支援プラットフォーム 研究支援代表者):
非常に重要なご指摘をいただきまして、そのとおりだと思います。私は、この支援体制は商業的ではなく最先端の共同研究を可能にする基盤である、と解釈していいのではないかと思っています。
同じように、支援者も研究者であるというのは本当にありがたいご指摘です。支援する側としては、やはりじくじたる部分もあるわけです。似た視点として、マイクロアトリビューションという言葉をAMEDの末松理事長が仰っています。やはり支援する側の人も日の目を浴びるというか、ちゃんとやったことを後で検証できるような対応をしてほしい。これは重要なことだと思います。

 今回、いろんな4題ありましたけれども、支援の内容がものすごくレベルが高い内容です。それがこの支援の原則だとしたら、共同研究というかたちで、具体的には論文に名前を載るというようなかたちは考えて対応していっていただきたいと思います。それでもやはり、若い方にとってはファーストオーサーかどうかという点は重要です。中間に入るというのは、ある程度もう立場の保証された人にはいいかもしれませんけれども、これから任期があって、次のステップを考えるという人にとって、やはりマイクロコントリビューションよりは、もう少しコントリビューションの高いというのが、どうしても必要だと思います。

 そのあたりは、ここだけで議論されるわけではありませんが、やはり支援する側も任期が付いてというような立場だと、心を込めてできるというものでもない。そのあたりは全体的に考えてサポートしていっていただきたい。それを全員で考えていく課題ではないかと改めて思いました。

井上:支援する側のキャリアパス、若手のキャリアパスですよね。支援される側も、若手をどういうふうに支援していくかという問題があると思います。では、鍋倉先生、お願いします。

鍋倉淳一(先端バイオイメージング支援プラットフォーム):
支援するほうにとって、特に若手に関してどう育てるかというのは非常に問題です。この学術支援の拠点というのが元々がん研だったんですけれども、今期になって大学共同利用機関と大学共同利用・大学共同研究拠点が中核になるということが条件でこういうかたちになる。これの一つの理由としては、共同研究にある程度慣れているところが前面に立って支援するということで、こういうことを立ち上げるということが本質です。われわれは共同研究利用機関で、これ以外にも共同研究ということはミッションとして進めています。そうすると、割と慣れているという、共同研究するという立場の研究ではなくて、いろんな共同研究にきているそのためのサポートについて割と慣れているんですけれども、その中でいろんな若い人たちが知識とか、自分のフィールドが広がるというメリットが、ある程度はこのシステムに元々根付いている。これをぜひ、今回初めて加わった方々も、自分のフィールドが広がるというのが一つのメリットだというところもあると思うんですね。特に若い人たちは、自分の視点が広がると。ぜひこれは文科省にもっと予算を増やしていってほしいです。人を増やして、技術のサポートという本当に研究者ができるところに集中して支援をしていくという体制をつくっていかないと、やはりこれは窮していくのかなと思っています。

 もう一つは、ABiSの先端バイオイメージングの中でも一つの大きな問題は、機械が、それこそシーケンサーみたいに非常に大きいものではないですけれども、数千万から1憶ぐらいの最先端の機械を持っているところが参画しているんです。そういうのは全国では十何カ所、二十カ所近くあります。ところが、やはり数年たつとこれがだんだん古くなってきます。そして、特に保守契約も出せないぐらいのお金しかサポートの支援側はもらっていなくて、それでやっている。そうすると、壊れた時どうするの、もう支援から外れるの、という。せっかく技術は持っているけれども機械が。機械デスという、非常にこれは大きな問題で、最先端の機器というのをどんどん使いこなしていって、保守していくのが、これもお金の問題ですけれども、そういうことを強く、今後はアピールしていって、サポートする。機器の入れ替えをぜひアピールしていって、最先端の支援を続けていく必要があると思っています。以上です。

井上:ありがとうございます。では、中村先生、お願いいたします。

中村卓郎(先端モデル動物支援プラットフォーム):
動物支援プラットフォームです。まず、今回、長山先生が発表されて、今コメントもされたんですけれども、僕から少しお話をしたいと思います。今回、長山先生は、病理形態解析支援を使われました。実際に支援した側の研究者は神田先生です。施設まで来て解析を手伝ってくれたということでした。神田先生に限らず、病理形態解析支援のメンバーは結構そういうことをやっていると聞いております。

 予算が非常に限られた中、できる限りのサポートをしていくということで、まさに民間の受託解析では考えられないようなレベルの支援ができていることはわれわれも大変誇りに思っています。一方で、今問題が出てきたように、支援側の援助が非常に必要であるということがこれから具体的になると思います。それから、私が紹介した若手の技術講習会もそうですが、裾野を広げるという意味は大きいと思います。ある支援を経験してくださった方の言葉ですが、少額の研究費、例えば基盤Cでコンディショナルノックアウトマウスを作って解析するなんて、まず普通に考えたらできない。この支援を使うことでそういった非常に高いレベルの研究ができた、ということをよく言われます。では、それは、われわれにとっても大変ありがたい話だと思います。

 じゃあ、科研費が取れなくなったら、そこで支援が打ち切りになるのかということですけれども、確かに、かつては例えばモデル動物の作成支援なんていうのは非常に時間がかかって、単年度では終わらないなんてケースも結構ありました。最近、ご存知のようにゲノム編集技術が確立してきまして、かなり短期間で、一つの会計年度内で原則的に終わるような仕組みになっておりましたので、そこはあまり心配しなくていいのかなということと、仮に科研費が取れなくなった場合でも、共同研究ベースで研究が広がっていくということも、そういう例も多々見ております。ぜひそういった道も考えていただきたい。もしそうなった場合は、逆に支援拠点側も積極的に研究に加わっていけるということで、また新たな研究の成果が広がっていくんではないかと思います。この支援プラットフォームはそういう使い方もしていただいて、わが国の生体科学の研究の基盤をこれからも広げていければと考えております。

井上:ありがとうございます。では、小原先生。

小原雄治(先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム 研究支援代表者):
ゲノム解析の代表の小原です。今日は岡田先生から最初に、もうシーケンサーはいらないと、そうするとゲノム支援いらないのかなとびっくりしました。でも、それはそういう意味じゃなくて、シーケンサーを買っても、ちゃんと最先端のものを使えるようにするということは本当にノウハウが必要です。多分、当時井ノ上先生はその辺は、ターゲットシークエンスではありますけれども、やられたんだろうと、それが役に立って支援冥利(みょうり)に尽きたんじゃないかいうことだと思います。

 ゲノムの場合は、比較的集約が可能ですので拠点を絞って、そこに集中的に投資することで、なるべくアップグレードを図って最先端を提供しようとしています。そこにはテクニシャンを中心にして、あまり心苦しくないようにスクリーニングをしてやっています。一方、情報解析のほうは結局肝ですので、これは分散型で、たくさんの大学の研究室で参加してもらってやっています。情報解析というのは、そこのポスドクさんが張り付かないと、今は大量過ぎて結果が出ないんですね。そういう人のキャリアパスというのは保障してあげないといけないので、そこは共同研究にしていただいています。

 そこはなかなか昔の奴隷と主人の関係でありましたんで、情報解析が奴隷になってしまうという話がありましたが、それもやっぱり頭の使いようです。ゲノム支援のいいところは実際のサンプル、データを基にアルゴリズム解析ができるというところもあります。今日は黒川さんがお話しされていましたが、アセンブラの新しいものですね。非常に難しい、なかなかつながらないようなサンプルがあって、それをいかにしてやればいいかというところから出発しています。それによって、リアリティに基づいた開発が、初めて役に立つアルゴリズムができましたと彼も言ってました。実際そういうこともたくさんあります。よって、そういう意味で、支援側と依頼される側が、お互いがウィンウィンになるという関係でできるように計らっています。でもそうは簡単にはいかないかもしれません。科研費取得者に限定する話については、これは科研費以外のプロジェクトも支援しろという国プロがいっぱいあって、実は結構科研費を外すと、そういう国プロとかあっちからどんどん来るんじゃないかと思うんで、そこは科研費にとじたいと思います。それから年度内でということも、ゲノムであってもウェット解析は可能な限り年度内に終わらせますけれども、その後の情報解析支援というのはもう延々と続くんですよね。

 だから、そういう意味でも年度越してやることもよくありますし、当然それは共同研究者という可能性が多いので、そこはポスドクさんだけですから追加のコストは出ないんで、共同研究でうまくやってくれというかたちでやってます。そういうかたちでうまく繋げていけばいいのかなというふうに感じております。

井上:ありがとうございます。今、ご意見をずっと伺っていると、やっぱりこの支援が最先端の支援であると同時に、比較的若い方とか、科研費がそんなに多くない方とかを助けていく。助けていくという言い方は失礼ですね、支援していくということも必要であるという、両方を目的としているというところもあります。その辺はどうするかということが、なかなか難しいところです。中村先生、確か動物プラットフォームでは一定の割合で若手を採択すると記憶していますが、どうでしょうか。

中村:今ちょっと数字は手元にはないんですけれども、もちろん若手、特に少額の研究費を取得している若手の方に関しては、別に一定数の枠を確保して、それで採択するという仕組みも作っております。

井上:そうですね。恐らく、今日ご説明を聞かれた方で、審査があって途中でリジェクトされる、そういう図がいっぱい書いてあって、その辺で少し自分の申請が通るんだろうかと思われている方もいると思うんです。恐らく申請される時に、全てのプラットフォームで相談ができると思うんですよ。この申請が、どの程度採択されるか、あるいは、こういうふうにしたら採択されるんだ、みたいなコメントももらえると思います。ですので、実際に申請あるいは支援を考えている方がおられたら、相談しながら、ぜひ積極的に応募していただきたいと思います。

 あと、若手の支援する側の環境について、今までずっと話し合ってきました。例えば共同研究ベースにしていく。共同研究すればお互いにウィンウィンの関係になって、そこの若手も新たな研究に出会えたりしながら、いろいろ発展できるんではないか、確かにそう思っていますが、支援する先生方の現場では実際にどうなんでしょうか。少し感じるところがあれば、お話しいただければと思うんですが、どうでしょうか。



村上:私のコホート・生体試料では、今までずっと、いわゆるマテリアルのメソッドにおいて最先端の支援をしています。生体試料、コホートのほうは、どちらかというとマテリアルなんですね。一言申し上げますと、こちらもヒトのサンプルを使っているということを、いかに使いやすくするかということで、支援というかサービスをしているわけです。

 それで、医学・生物学のパラダイムシフトの中で、1つは情報化、それからメソッドの進歩というのがあります。もう一つは人の試料をそのまま解析できるようになったということが非常に大きいと思うんです。けれども、そこは、例えばサンプルを出した方の同意や、個人情報保護など、個別に研究者が全部対応していたんでは、とても対応しきれない。あるいは使えないというサンプルをいかに全体としてまとめて、皆さま方に使っていただけるようにするかという点に、かなり苦心しているということです。
 サイズメリットや、それからさきほどHTLV-1のお話にありました、時間経過を追ったサンプル。そういったところはやはり系統的に集めていかないといけないということで、この支援の意義があると思います。逆に、特に疫学というのは、基本的に人の研究の疑問の出るスタートポイントであり、最終的に実証する、あるいは予防につながる重要なところなんですけれども、今の科研費体制だけにすると比較的薄いサポートしか得られていないことになるわけですね。

 そうなると、どうしても科研費を取った人との共同研究というかたちで、全てこれにアプライしていくということです。われわれは3年間で、625件の支援をしています。代表者が科研費を取れない時には共同研究というかたちでやっています。やはり分野によりますが、科研費の受託者だけではなく、それを含むようなグループ研究に、できるだけ広くサポートをしていくということも、一つの観点かなと思っております。

井上:先ほどマイクロコントリビューションという話題がでましたが、それについて少し具体的にご意見いただけますか。

村上:それは、今まではとにかく奴隷とはいいませんけれども、メソッドあるいはマテリアルを出すだけの側というのは縁の下の力持ちでした。それだけで終わっていたのを評価していくことです。

ただ、評価するとは、突き詰めていえば、その若い方のキャリアパスにもつながるということを保障することです。いくらきれいごとを言っても進まないので、そこをどうしていくか。確固とした答えは現在ありません。けれど、そこの評価システムというのは大いに考えていっていただきたいと思います。

 やはり、疫学も本当に縁の下の力持ちである場合が多いです。それをかたちにしていく。あるいはキャリアパスの時にそういうものを加味したような評価が行われてほしい。そう、支援する側として申し上げたいところです。決して必要以上のことを申し上げることもないですが、全員がやる気をもって大きな仕事を作っていく。コントリビューションが自然にできるような体制を作るのが、われわれの仕事でもあるのではないかと思っています。

井上:今の点に関して、支援する側の先生方、何かご意見ございますか。

鍋倉:支援する側としては、今後はギブ・アンド・テークという考えでいきたいと思います。支援する側と支援される側というより、オールジャパンで研究を進める。お互いにここのプラットフォームを一つのモデルケースとして、一つのきっかけとして共同研究をしていただきたい。個々の研究にプラットフォームを使うというより、それぞれが自分の持っているメリットを提供する、または利用する共同研究をどんどん進めていく。特に若い人たちは、お互いに自分たちの必要なところで共同研究をやってもらう。こういうことの一つの呼び水になるようになればいいかなと思ってます。今後は、やはりそういうオールジャパンと言ったらおかしいですけれど、日本の大学がだんだん疲弊していくというか、日本を一つの研究機関として考えてやるしかないかなと。まさに必要だというふうに考えている方は、ぜひこのプラットフォームを一つのモデルケースとして、共同研究をつくっていくことが必要だと思っています。

井上:そうですね。鍋倉先生のご指摘通りです。最初の挨拶で磯谷局長がお話しされていましたが、日本の生命科学の研究は今後もっと伸びるための対策が必要だと考えられます。その中でこの支援事業の一つの後押しになる。全日本としての共同研究、生命科学研究の後押しになるような今後の体制というものをつくっていければと、支援する側は思っています。ぜひとも、そういうところで良いアイデアがあればと考えています。

 先ほど、機器のお話が鍋倉先生のほうから出ましたが、これはお金を得る以外にはもうないでしょうか。何かシークエンスの場合はレンタルに、あるいは企業に受託するみたいな感じがありましたけど。

小原:ゲノムは比較的集約化ができます。だったら集約して、拠点をとにかく絞って、そこに集中投資をしようということでやってます。ただ、顕微鏡なんかの場合はいろいろあるから、すごく大変だろうなと。ただ、その場合もどうなんかな。集約化で済むのか。トータル増やせといってもそう簡単にいかないとした時に、どちらを絞るかでしょうね。パッと見たらちょっと多すぎるなという気がいたします。特徴をつくって、ここは頑張るんだみたいなところがあってもいいかなと思います。

鍋倉:例えば、クライオ電顕なんかは、ある程度集約していく。特に予算額が大きくかかるものは集約して、集約化ができるものは集約化していく。その他、個人の技術でできるものは分散してもいいのかといって、いわゆる年度を越えての支援というのが今後はぜひ必要と思っています。

井上:このあたりは、そういうネットワーク形成とか支援の仕方、あるいは機器の問題とかをある程度支援する側で解決していかなくてはいけない。それは認識しております。そういう方向で考えていきたいと思っております。

 少し時間がなくなってきましたので、今日講演いただいた先生方にご提言がありましたら、一言ずついただければと思います。支援する側もいろいろ問題を抱えていて、理想的には今鍋倉先生がおっしゃったように、全日本として本当にパワーアップしていきたい。一見現実化が困難に思えるものでも構いません。われわれのブレーンストーミングになればと思います。佐藤先生から何かありますでしょうか。

佐藤:やはり、イメージングにしてもシークエンスにしても、マウスにしてもいろんな研究技術が進んでいます。トップレベルのジャーナルに出そうと思うと、いろんな実験をしないといけないので、こういう枠組みでオールジャパンでやるというのは、ぜひ続けていただきたいと思います。

井上:ありがとうございます。

澤本:鍋倉先生がおっしゃったように、確かにこれは共同研究のきっかけづくりという意味合いが大きいと思っています。通常、大野先生は支援者というより共同研究者でありアドバイザーであり、いろいろな議論をさせていただいています。その過程で、例えばこういう技術があればいいなと一緒に新しい技術を開発していくことができる。その新しい技術に関する論文をもし書くことになったら、それは私たちの論文ではなく大野先生のグループの論文というかたちになる。それこそまさにウィンウィンというか、お互いにメリットがあるような関係になると考えています。

井上:多分、お互いに研究者であるというのが、そういう支援を求めるほうも、こういうものがやりたい、それに対して支援されるほうも技術的にこうやったらできるんじゃないかと議論する。そういう共同研究が一番理想だと思います。だから先生方の共同研究がすごく理想的なかたちで進んでおられるんだなと思います。じゃあ、大野先生いかがでしょう。

大野:私のほうは、支援する立場もちょっと入っているんですけれども。まず一つ、先ほどちょっとキャリアパスの話がありましたが、こういった支援の中で特殊技術を身に付けたような若手が、実際そういった技術をメインで使ったり、あるいは導入したいというラボに、こういった経験の中でポストが空いて出ていくようなかたちでも、キャリアパスとしてできてくるのかなと思います。なので、意外といくつかこういった枠組みをベースにして、若手が育っていくような仕組みというものが、今後できていくんじゃないかなというのをちょっと感じています。

井上:ありがとうございます。長山先生、いかがでしょう。

長山:もう今までお話が出た部分ですが、私たちの場合も、例えばレビュアーからいくつか指摘をされた時に、病理の神田先生と一緒にどういう組織図を出せばいいかとか、どういう染色をしたらいいかというのも、フェイス・トゥ・フェイスでディスカッションができたというのが、本当にありがたかったかなと思いました。そういういわゆる共同研究というようなかたちでこれから先も支援をしていただけると非常に助かるというふうに感じました。

井上:ありがとうございます。岡田先生、いかがですか。

岡田:ちょっと提言とはずれるかもしれませんけれども、私が言いそびれた、良かったと思ったことが一つあります。それはデータの公開ですね。ゲノム支援の場合は、確か作ったデータは必ず公共のデータベースに登録しなさいというふうになっております。実際、今、公共のデータベースを見にいくと、ゲノム支援で使われたデータがたくさん並んでます。これは素晴らしいことだと思うんですね。データの公開って支援する・されない以外の人への還元というのも非常に大事なんです。でも、いろんな事情で進まないんですね。自分で論文を書いて、自分でデータを作っても、なぜかいろんな事情でそこまでいけないことが多いんです。しかし、これはゲノム支援で支援いただいたから公開しますと、これは非常にいい話が通るんですね。そういったかたちで、作ったデータが巡り巡ってどんどん第三者にも使われていくというのは素晴らしいことだと思います。ぜひそこも素晴らしい功績の一つとしてまたアピールしていっていただければと感じております。

井上:ありがとうございます。動物も年々作成するマウスも増えて、それが登録されていくわけですから、われわれが作っている研究資源というのはかなりのものであるというふうに思います。どうぞ。

小原:医学の先生は、どこにも登録しないんですよ。ゲノム支援の反省からこれはいかんと。今は、まず登録して、もちろん秘密にはしますが、そこからダウンロードして使ってくださいというかたちにしています。論文が通ったら、もちろんオープンにする。そんなかたちにしないとデータが散逸してしまいますから。

井上:その辺もある程度ルールが必要なんですね。分かりました。今日いろいろ会場、あるいは講演者の方からいただいたコメントを基に、今後3年間、あるいは将来の支援像というのをこちらでいろいろ考えて、新たな支援を組み立てていき、文科省の方々と議論しながら、より発展的な姿というのをつくっていきたいと考えております。今日はどうもありがとうございました。また、この支援をよろしくお願いいたします。

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